WEBセミナー ホスピスのこころ

第9回 「Not doing, but being」

2017-04-12

上記の言葉は、近代ホスピスの生みの親であるDame Cicely Saunders先生が語ったものであることはWEBセミナー第2回の時にご紹介しました。この言葉はホスピス緩和ケアの真髄を表しています。

前回のセミナーで、「座ること」と「聴くこと」がホスピス緩和ケアでは重要であることをお話ししました。この二つをまとめると”being“、つまり「存在すること」となります。ここで大切なのは、”being”は「存在してあげる」ではなく、「存在させて頂く」ということ、つまり能動的ではなく、受動的な態度だということです。そこでは患者さんが主体になるのです。

一方、医療の基本は”doing”です。例えば、「検査する」、「治療をする」、「手術をする」、「ケアをする」など医療の基本的な姿勢は能動的です。医療者から見ると患者さんに「~をしてあげる」ということになります。そこでは医療者が主体になります。ですから、”doing”と”being“とは根本的に医療者と患者さんの立場が反対になるのです。私はこのことがとても大切だと考えています。

このことはCicely Saunders先生がスピリチュアルケア(後の章でくわしく述べます)について述べている次の文章からも分かります。

「答えにくい質問をいくつも抱えた患者と家族のそばに何も答えられないままとどまっている人々(医療者)は、そばにいることによって患者と家族が求めているスピリチュアルな救いを提供している自分に気づくことになろう。」

つまり、「スピリチュアルな救いを提供してあげる」ではなく、極めて受け身の態度なのです。この受け身の態度がホスピスケアでは重要だと思います。

終末期の患者さんにとって、”being” が許される人とはどのような人でしょうか。それは、患者さんが信頼できる人だと思います。逆に言うと、信頼できない人には傍にいてほしくはないと思います。私たち医療者は、患者さんが終末期になって傍にいてほしい存在となれるかどうかが問われるのです。患者さんにとってその人が信頼できるかどうかは患者さんが決めることですから、どんなに医療者が頑張っても、そうはならないかもしれません。

私達医療者はどうすれば患者さんの信頼を得る存在となることができるでしょうか。私達ができることは、普段から医療者としての本来の役割である”doing” を患者さんに対して誠実に行うことしかないと思います。その積み重ねにより患者さんはその医療者を信頼するようになるでしょう。

ただ、私たち医療者が誠実に努力して”doing” しても、必ずしも患者さんの信頼が得られるとは限りません。人間と人間の関係ですから、好き嫌いもあれば相性もあります。残念ながら私たちがその方に選ばれないかもしれません。その時は、とても残念ではありますが、その医療者は引き下がるべきです。そんな時にありがたいのは、私たちはチームでケアを行っているということです。良いチームの仲間は誠実にケアをしても結果がうまくいかない時、その仲間をねぎらい、励まし、そして他のメンバーがその代りを担ってくれるものです。私たちはそのような良い仲間を作り上げてゆかなければなりません。

私たちは、患者さんの人生の最期まで、その傍らに存在させていただけるような医療者あるいは人間となるために日々精進してゆきたいものです。

 

                           理事長 前野 宏

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